最近の殺陣や舞台を見ていると、ふと気にかかることがあります。それは「受け(防御)」が少ない、あるいは表現として使用していないということです。
派手なアクションシーンは増えましたが、そのほとんどが刀と刀をぶつけ合う「打ち合い」になってしまっているのが現状です。
今回は、殺陣における「受け」の重要性と、その技術的な役割について深掘りしてみたいと思います。
なぜ「打ち合い」ばかりではダメなのか?
まず、なぜ「打ち合い」だけでは表現として不十分なのか。それは、攻守の区別がつかなくなるからです。
本来、殺陣には「どちらが攻めていて、どちらが守っているか」という表現が殺陣のメリハリをつけます。しかし、互いに刀をぶつけ合うだけの「打ち合い」では、力が拮抗しているように見えてしまうだけで、戦いの優劣は見えてきません。
特に現代的な殺陣を好む作品では、この「打ち合い」が多用されがちですが、乱用することにメリットはありません。「受け」と「打ち合い」を明確に使い分ける意識を持つだけで、殺陣のクオリティは格段に上がります。
刀のリアリティとエンターテインメントの狭間で
リアリティの観点から言えば、日本刀は激しく打ち合えば刃が欠け、最悪の場合は折れてしまいます。決して安価なものではない刀を、ガチンコでぶつけ合うことは本来好まれません。
しかし、かといって刀が全く触れ合わない殺陣では、舞台上の華やかさに欠けてしまうのも事実です。
そこで重宝するのが「受け」という技術です。
「受け」は、相手の刀の勢いを殺して受け止めるため、真っ向から打ち合うよりも刀への負担を軽減できます。それでいて、刀同士が接触する金属音や衝撃は伝わるため、華やかさも損なわれません。
- 力が拮抗している時: 打ち合い(アクセントとして使う)
- 攻防の流れを作る時: 受け
このように、現実的な「刀の保護」と演劇的な「見栄え」のちょうど良い中間を取れるのが「受け」なのです。
「受け」の基本技術とコツ
では、具体的にどうすれば美しい「受け」ができるのでしょうか。基本となるのは、上段受け、中段受け、下段受けです。
重要なのは「足運び」と「点」の意識です。
- 足運び: 基本的には一歩下がります。
- 受ける位置: 自分が斬られるはずだった「点(場所)」に刀を出します。
- タイミング: 相手の刀が動き始めてから反応し、最短距離で刀を出します。相手より先に準備してしまうと、予定調和に見えてしまうためです。
真向や袈裟斬りには上段、胴斬りには中段、足払いには下段と、的確に使い分けることで、一歩下がりながらでも美しい防御の形が完成します。
「柳」と「擦り流し」の違いに見る表現の深さ
少し上級者向けの話になりますが、「柳(やなぎ)受け」と「擦り流し」の違いについても触れておきましょう。ここが曖昧になっているケースが非常に多いのです。
【柳受け】
柄よりも切っ先が下がった状態で一歩下がり、刀を受け止める技です。あくまで「受け」なので、刀と刀が合い、一瞬の間(ま)が生まれます。
【擦り流し】
こちらは相手とすれ違うように動き、安全確保のために刀を体に沿わせる、いわゆる「避け」に近い技術です。刀を合わせなくても成立しますし、合わせたとしても、次の一手(反撃)を出すために流れるように動くのが特徴です。
よく見かけるのが、相手の斬撃に対して垂直に移動しながら捌く動きですが、これは多くの場合「擦り流し」に分類されます。「柳」として見せるなら、しっかりと受け止めて相手の軌道が逸れたことを確認する「間」が必要です。一方、「擦り流し」なら、すぐに次の攻めの一歩が出るはずです。
この「受け(柳)」なのか「避け(擦り流し)」なのかを意識して演じ分けることで、殺陣に深みが生まれます。
おわりに
スピード感のある立ち回りで「打ち合い」ばかりが続くと、どうしても「ただ刀を振り回しているだけ」に見えてしまいがちです。
攻守の優劣を描き、刀の理にかなった動きを見せるためにも、ぜひ「受け」の技術を多用してみてください。そうすることで、殺陣の表現の幅はもっと広がっていくはずです。
